Closed memory
男の腕を身をもって思い知らされた俺は、大人しく従うしか術はない。
今ここで乱闘を起こそうものなら、真下にいる長州の奴らに俺の存在が暴露て、蘭丸にも危害が及んでしまうだろう。
第一、あの中で一番の危険人物が他でもない蘭丸の近くにいるのは、痛い。
俺と同じ短刀しか持っていない蘭丸には男と対峙するのに不利すぎる。
俺は微かに頷くと、男の背を追った。
「ーーー」
外は、明るかった。
もちろん今は夜だ。
日はずいぶん前に暮れてしまっている。
外は、明るいだけでなく賑やかだった。
頬を僅かに紅潮させた男達が何人も島原に通っていた。
煌びやかな着物を着た芸子が何人か通りすぎる。
「……そうだった」
俺は自分が島原にいることを思い出した。
此処だけ、昼みたいだ。
思わず、そんな想いを抱いてしまった時、急に体勢が崩れた。
「っちょ…⁉︎」
男はじっと佇む俺に痺れを切らしたのか、俺の肩を引っ張って島原のさらに奥へ引きずって行く。