Closed memory

それだけじゃない。
可笑しいのは風貌や容姿、読心術だけじゃない。



今のこいつは、怖いぐらいに隙だらけだ。



まるで俺に、【どうぞ何処からでも自分を自由に斬って下さい】と言っているようなものだ。



舐められてるのか?



「……敵じゃない」



「は……?」



「……味方でもない」



男は静かに視線を落とすと、自分の右腕を差し出した。



その腕もまた、包帯で巻かれている。



「なんだ。どういうつもりだ」



俺の視線を無視して、男はおもむろに包帯を解いていく。



はらり、またはらりと包帯が畳の上に落ちる音が、やけに大きく聞こえた。



そして最後の包帯が畳に落ちると、不気味な刻印が顔を出した。



「これは……」



「……契約の印」



黒い肌に刻まれた刻印は、痛々しかった。



禍々しい。



その言葉が、ピタリと当てはまる。



「契約?……あの奥にいた男としたのか」



男は頷くと、手早く腕に包帯を巻き直した。





< 42 / 79 >

この作品をシェア

pagetop