Closed memory
「……蘭丸……っ……貴様ぁぁ‼︎」
吉田の足元には、蘭丸が倒れていた。
気絶しているのか、蘭丸はピクリとも動かない。
短刀を懐から探り出すと、切っ先を吉田に向けて構える。
「あーー、誤解しないでくれるかなぁ」
吉田の口調は、嫌に穏やかだった。
この場には不似合いなほどに、透き通っている。
「君とやり合う気なんて、俺には毛頭ないよ」
言うが早いか、吉田は腰に差した大小を後ろにいた男に手渡した。
「ほら、君も早くその物騒なもの仕舞いなよ。危ないからさぁ、ね?」
「ふざけるなっ……誰が」
ーー信じるかーー
そう続けるはずだったのに、俺の言葉は途中で途切れた。
かわりに俺の口から零れたのは、喉を締めつけられて出た、呻き声。
いつの間にか俺は、壁に背中を叩きつけられていた。
襟首にはまだ、吉田の手がある。
吉田の容姿からでは想像出来ないほど、凄まじい力だった。
「俺、さぁ……同じこと、何度も言うの嫌いなんだよねぇ」
吉田はそう言って艶やかな笑みを浮かべた。
微塵も笑っていない瞳に、俺は恐怖した。
今まで生きてきて、こんなにも人が怖いと思ったことはない。