Closed memory

「まぁ、引き抜きの件で君が疑問を持つのは最もだと思うよ。……俺だって」



「え……?」



俺だって?



すかさず聞き返すと、吉田はハッとしたように目を瞬かせると、慌てて手を軽く振ってみせる。



「なんでもない、なんでもない」



なんでもない訳ないだろうが。



そう言いかけた時、蘭丸の身体が僅かに揺れた。



「……っ……ぁれ、京……?」



「蘭丸っ!気付いたのか」



まだ頭が冴えていないのか、蘭丸は頭を押さえたままゆっくりと起き上がった。



「……ここは一体」



「島原の揚げ屋だ。お前は吉田に薬をもられたんだよ」



薬を……。
蘭丸はうわ言のように呟くと、また畳に寝転がった。



「あらら。この薬……結構効き目が強いらしいね。次使うときはもっと気をつけなきゃな」



くそったれが。



俺は腹の中で吉田に悪態づくと、蘭丸に自分の羽織を被せて吉田に向き直った。



「ま、返事は急がないよ。でも、君らは必ず此方側に来ることになるだろうけどね」



「……勝手な事ばかり言ってんじゃねぇ‼︎俺たちにだってまげらんねぇ信念がある。死んでもお前らのとこになんて行くわけないだろうが」



「死んだら佐幕も倒幕も何もないと思うけどね」



吉田は楽しげに笑うと、立ち上がった。



「……困ったなぁ」



その刹那、部屋の温度が急激に下がった。



またピリピリとした冷気が俺の肌を刺し始める。






< 47 / 79 >

この作品をシェア

pagetop