ラザガ
タツミは二人の前に歩み寄った。
「破藤豊作さん、ですね」
「あんた、誰だね?」
その男、豊作は、ミチを背中に隠しながら聞いた。
タツミな丁寧に頭をさげた。
「初めまして。私、八乙女研究所所長の八乙女タツミと申します」
「……。よくは知らんが、この状況を目の前にして、その落ち着きぶり。あんた、まともな人間じゃあないね。おれと同じ側のモンかい?」
さっき殺した若者の死体を足でつつきながら、豊作は言った。
「ご想像にお任せします」
「ふん、で、おれに何の用だい?」
「仕事を、頼みたいのです。暗殺専業会社破藤グループ元社長、破藤豊作さん」
豊作は、はげた頭をぼりぼりとかいた。大量のフケが宙に舞った。
「おれはもう引退している」
「存じております。しかし、この仕事には、あなたにしか務まらないのです」
「お父さん。駄目だよ」
ミチが声をあげた。
「ミチ……」
「この女のひと。すごく良くない感じがする。お父さん、その仕事、受けちゃだめっ」
ミチは豊作のズボンの裾を強くつかんだ。豊作は、そんなミチの頭にそっと手をのせ、やさしく笑った。
「そうだな。ミチの勘はよく当たるからな。姉ちゃんよ。そういうことだ。悪いけど、他を当たってくれや」