ラザガ
「簡単に言ってくれるじゃねえか。あんた、うちの会社をなめてんのかい?」豊作はタツミをにらんだ。「破藤グループは、おれが直々に鍛えあげた、骨のある男達だけで構成された組織だ。そう易々と潰せると思うな」
「そうでしょうね。でも、所詮、平和な日本の小さな暗殺組織です」タツミはにらみかえす。「八乙女研究所は、過去、ジュオームの実験データを守るために、世界中の軍事組織と戦ってきたのです。こちらこそなめてもらっては困ります」
「ほう?」
豊作は巨顔を近付けた。
タツミはまったく怯まずに、静かに豊作の視線を受け止めた。
そのまましばらくの間、二人は黙ってにらみあった。
豊作は汚い歯を見せて笑った。
「ちょいと、あんたに興味がわいてきた。いいぜ。引き受けよう」
「お父さん!」
ミチが大声をあげた。
「大丈夫だよ、ミチ。もし、この女がおれをはめようとしていると分かったら、すぐにぶち殺す。お父さんが怒ったらすごいことは、ミチもよく知ってるだろう?」
ミチは反論の言葉を吐こうとして口を開きかけたが、豊作の輝く目を見て、すぐにあきらめた。
こうなった父はもう止められない。
「ありがとうございます」
「しかし、破藤グループを潰すって報酬は無しだ。あれはおれのモンだ。潰す時はおれが自分で潰す」
「……では、報酬はどうしましょうか?……お金、ですか?」
「金には困ってねえって言ったろ。んー、そうだな……。そうだ。ミチに綺麗な服でも買ってやってくれ。誕生日だしな。おれは男だからよ。女の子の喜ぶものってのがよくわかんねえんだ。あんた女だから、そういうのくわしいだろ?」
「……それだけ、ですか?」
タツミは目を丸くした。
「おう」
「もう、わかってると思いますが、命がけの仕事ですよ。その報酬が、娘さんの服、ですか?」
「仕方ねえだろ。他に欲しいものがねえんだから」
「…………。」