ラザガ
待てよ?ただ熊に食われて死ぬって、なんかださくないか?ださいな。うん、ださい。ああ、駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。ださいのは駄目だ。ださいのはよくない。どうせ死ぬなら格好よく死なないと。んー、どうすっかなあ。そうだ、最後にちょいとこの熊を驚かしてやろう。
策郎は深く息を吸った。そして全身の力をこめて、左足だけで立ち上がった。
「うあああらあああっ!」
そして高く跳躍し、熊の頭に飛び付いた。熊はびくっと体を震わせて、くわえていた右足を落とした。
策郎はにたっと笑うと、熊の鼻に思いきりかぶりつき、歯に渾身の力を込めた。ちぎれた太股の付け根から、血がびゅっと吹き出した。
「がぎぎぎぎぎぎぎぃっ」
ぎちゃあっという生々しい音をたてて、策郎は熊の鼻を噛みちぎった。
熊は悲鳴をあげて、策郎の体を叩き落とすと、あわてて逃げだしていった。
地面に仰向けになった策郎は、熊の鼻を祖酌しながら、満足気にうなずいた。
よし、いまおれ格好いいことできたぞ。これで心置きなく死ねる。さあ死のう。
策郎は目を閉じた。
数分後、足音が近付いてきた。
策郎はゆっくりと目を開いた。
白衣を着た女が、側に立ってこちらを見下ろしていた。
策郎は、かすれた声で、つぶやいた。
「誰だ、てめえ?」
「私の名前は八乙女タツミ。ふふ、いいわ。あなた、すごくいい。その精神の強さ。あなたなら、乗れるわ。乗れる。間違いなく乗れる」
「何、言って、んだ?」
「安心して。わたしがあなたを生かしてあげる。そしてあなたにとって最高の世界へ招待してあげる」
策郎の意識は遠のいていった。だから、その女の最後の言葉は聞きとれなかった。
「あなたになら務まるわ。私たちが開発した、機動人型兵器・・・・・・ラザガのパイロット」