ラザガ
その頃、八乙女研究所から二十キロメートル程離れた森を、異形の怪物が歩いていた。
八乙女研究所の護衛ヘリに乗った偵察部隊のパイロット達は、その姿を見て息を飲んだ。
それは、人間の手の形をした怪物だった。
ドーム球場くらいの体積を持つ、あまりにも巨大な手首だ。
手の甲の辺りに、顔がへばりついていた。三歳位の赤子の顔だった。笑っていた。
そんな巨大な人面手首が、指をクモの足のように動かして、森の木々を何本もなぎ倒し、土煙を大量にまきあげながら、前進していた。
人面手首が木を倒す度に、たくさんの鳥の群れがけたたましい鳴き声をあげながら飛びたってゆく。野生の動物達が、吠えながら駆けずりまわる。
ふと、人面手首の赤子の顔が、空を飛ぶヘリを見た。
「やばい!見つかったぞ!」
「落ち着け!ここは高度三百メートルだっ!ヤツは何も出来ないさ!」
パイロット達がそんな会話をかわした時だ。
ヘリが影に包まれた。
見上げると、人面手首がヘリの真上まで跳躍していた。
パイロット達が悲鳴をあげる間も無く、人面手首はヘリを思いきり叩き落とした。
ヘリは一瞬で地面に叩きつけられ、爆発、炎上した。
火が森に燃え広がってゆく。
着地した人面手首は、楽しそうに指をうごめかせながら、笑い声をあげた。
きゃははっ
きゃはははっ
きゃははははははっ
その巨大な笑い声は、木々を震わせ、二十キロメートル先の八乙女研究所まで届いた。