ラザガ
九島策郎は夢を見た。
暗闇に包まれた廃墟に、ひとりぽつんと立つ夢だ。
「ここは?」
周囲を見渡し、歩き出そうとした時だ。
大地が揺れた。
策郎は転びそうになるのをこらえた。
ずしぃ…
ずしぃ…
ずしぃ…
と、その揺れは規則正しく繰り返された。
廃墟のコンクリートに、ヒビが入る。
やがて、揺れがだんだん大きくなったとき、策郎は気付いた。
これは地震じゃない。
足音だ。何かの足音が、こちらに近付いている。
そのとき、廃墟の高層ビルの陰から、異様なものが姿を見せた。
見上げるほどの大きさの赤い巨人だった。
目が痛くなるほどの赤を全身にまとった巨人が、策郎を見下ろしていた。
目があった。
そのとき、策郎は、今まで味わったことのない、とてつもない。恐怖を感じた。
やべえ。こいつは、なんだかよくわからないが、間違いなくすげえやべえもんだ。
急激に汗が流れだした。舌が渇き、足が震えだす。
そのまま、巨人と策郎は、しばらくの間見つめあった。
十分くらい、そうしていただろうか。
突然、策郎は、声を聞いた。それは音ではなく、自分の頭の中にだけ響いた。
「これは、おまえの声か?」
策郎は巨人に話しかけた。
「おまえ、おれを呼んでいるのか?」
それに答えるかのように、巨人は象と同じくらいの大きさの手を、策郎に向かってゆっくりとさしだした。