ラザガ


「……足止めですか。初心者マークの僕らに無茶を言ってくれる」


残酷号を操縦しながら、雄介は苦笑した。


それなりに覚悟はしていたが、ジュオームエネルギーの機動性が生み出すこの重圧は予想以上だった。
全身の骨が、きしみをあげている。


ふと、座席の下に、何か落ちているのを見つけた。


ちぎれた人間の耳だった。


おそらく自分の前に試乗したテストパイロットのものだろう。操縦に失敗して死んだらしい。


雄介は動じない。
こういうものは見慣れている。


「掃除が行き届いてませんね。あとで文句言っておきましょう」


そのとき我王号から通信が入った。


「おーい、雄介。敵っぽいのが見えてきたぞお。気をひきしめろい。うわ、なんじゃあれ?」


「豊作さんっ?」


雄介は仮面の奥で目を丸くした。


モニターに映る豊作は、耳をほじりながら操縦捍をにぎっていた。
あの重圧を浴びながら、片手で操縦しているのだ。


雄介は舌打ちを漏らした。
認めたくないが、この破藤豊作という男は三人の中で一番強い。


「おーい、雄介。よけたほうがいいと思うぞ」


「え?」
雄介は前方を見た。
外部モニター全体に、巨大な赤子の笑顔が映っていた。


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