ラザガ
そうして、ジュオームチルドレン達は、破壊と殺戮を始めた。
リリーは、最初は人間に対する恐れをかかえていたが、様々な街を破壊し、たくさんの人間を喰い殺してゆくにつれて、その恐れはあっさりと消えていった。
自分の口の中で、噛み潰され、悲鳴をあげるたくさんの人間の味を感じながら、思った。
なんだ、人間ってこんなに弱いんだ。こんなに小さいんだ。ゴミ虫みたい。まるでゴミ虫みたい。わたし、こんなのに怯えてたんだ。馬鹿みたい。馬鹿みたい。
恐怖心が、消えると、強い欲望がわいてきた。
それは食欲だった。
まだ人間だった頃、リリーはいつも飢えていた。家が貧しかったため、毎日ろくな食事がとれなかった。
その身を売られたあとも、劣悪な環境で働かされ、満腹になったことなど一度も無かった。いつも、胃袋がひりひりと痛むくらい空腹だった。全身がガリガリに痩せ、腹部だけが丸く膨らんだ。
アメリカの八乙女研究所でジュオームを浴びたとき、凄まじい痛みの中、こんな問いかけが聞こえた。
君の望みは、何だい?
リリーは心の中で叫んだ。
食べたい。食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたいっ!!
思いきり食べたいっ!!!
そしてジュオームは、リリーの体を巨大な人面大腸へと変えた。
それは、まさに「食べる」ことに特化した肉体であった。体のほとんどが消化器官。リリーはどんな物でも、おいしく食べられるようになった。
人間だろうと、ビルだろうと、地面だろうと、森だろうと、どんなものでも喰らい、消化し、栄養にした。
毎日毎日、満腹になるまで、たくさんの人間を食べた。たくさんの建物を食べた。リリーは幸せだった。