恋?未満
それから暫らく近付かないようにした。

煙草を吸っている時に彼女が来ると、

もみ消してその場を離れるようにした。

8月も半ばを過ぎ、引越しの準備をしながら、

慌ただしい日々が続いた。

彼女も月末は忙しいらしく、

ちょくちょく見かけるその顔は、

眉間に皺を寄せ、疲れがみてとれる。

そして、8月29日。

コンビニで昼食を買い、

事務所のドアを開けようとしたその時、

非常階段のドアが開き、彼女が、

満面の笑みを浮かべて同僚の女性と一緒に入ってきた。

ドアノブに手を掛けたまま、

幼さを残すその笑顔に釘づけになり

彼女と目が合った。

その瞳には、俺が確かに映っていて、

笑顔のまま、薄く会釈していた。

急激に速くなる鼓動。

集まる熱を隠すようにドアを開け中に滑り込んだ。
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