恋愛事案は内密に
着替えを終え、一階に降りる。

一人の女性が玄関前のベンチに腰掛けている。

北野さんだった。

北野さんはスマホを片手にロビーで待っていた。

背の高い少し白髪交じりの短髪のグレーのスーツを着た男性がビルに入ってきた。

北野さんは顔を上げ、飛び上がるようにベンチから立つ。

私はとっさにエレベーターホールの角に隠れた。

北野さんは持っていた茶色いA4の封筒を渡した。

すると大きな手で北野さんの頭をぽんぽんと軽く叩いていた。

男性はニコリと北野さんに笑いかけると、北野さんも同じように笑顔をかえしていた。

そして、北野さんは男性に促されるように隣に並んで歩くと、玄関を抜けて外へ消えていった。

北野さんの嬉しそうな表情は、女の顔がのぞいていた。
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