恋愛事案は内密に
「五十嵐くんと付き合うのはいいけど、心残りのまま付き合うことになる」

「そんな、心残りだなんて。北野さんのこと傷つけることはしません」

そっと唇にカクテルグラスを近づけ、ゆっくり傾けた。

乾杯もできない、その状況の中で、僕もしぶしぶ手前のグラスに口をつける。

「五十嵐くんと付き合うことでまるで当てつけみたいにしたくないの」

「当てつけって、だから僕が北野さんを」

「五十嵐くんはいい子よ。かっこいいし」

かっこいいか。どこかで聞いたフレーズだった。

「ダメ、ですか」

「せっかくいいところ選んでくれてありがとう」

そうやって凛として笑う。

数時間後には知っている顔と顔が重なり、交わり溶けていくんだろう。

「お代、ホントは出そうと思ったけど、きっと五十嵐くんが強気に出ると思うからやめとくね。また次回の飲み会のときに返すわ」

「そこまで考えなくても」

「告白は、大切な人にとっておきなさいよ」

ぐいっと残りのカクテルを飲み干し、北野さんは行ってしまった。
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