世界でいちばん、大キライ。
静かに口角を上げて言うジョシュアに、挑戦するような眼差しを向けてそこに立っていたのは、スーツ姿の久志。

久志はただ、ジョシュアの薄い色の瞳をじっと見つめていた。
――桃花の腕を掴んだまま。

「前もココに現れたけど、アナタはモモカとどういう関係なんだろう?」

軽く右手を腰に添えて、小さく首を傾げながらジョシュアが尋ねる。
桃花はその質問に、思わず顔を赤く染めて目を逸らした。

(バカ! 別になんにも関係ないんだから、動揺なんかしないで堂々としなきゃダメじゃない!)

桃花が心の中で自分に叱咤していると、僅かに久志に掴まれている腕が引き寄せられた気がする。
逸らした瞳を、今度は斜め後ろに立つ久志にそっと向けた。

すると、その時目に飛び込んできた久志の顔が、とても凛としていて心を奪われる。

「……その答えによっては、コッチも言うことが変わってくるからね」

突然鋭い目になったジョシュアが淡々と言葉を重ねると、久志は一度桃花に視線を落とした。
その視線とぶつかった桃花は、まだ収まりきれていなかった動悸が、再び激しいものに変わる。

バクバクと跳ねる心臓で瞬きも出来ずに彼を見つめ返していると、久志はふいっと目線をジョシュアに戻してようやくその薄い唇を開いた。

「オレに、彼女を譲ってくれませんか」

その不意の台詞に、心臓が止まるくらいに驚いたのはもちろん桃花。
息の仕方も忘れるくらいに頭が真っ白になって、全くリアリティのない世界を見ているような感覚に陥る。

そんななか、正面切って啖呵を切られた形になったジョシュアが無表情で腕を組み、ジッと久志を捕らえる。

少しの間の後、桃花は今まで聞いたこともないようなジョシュアの低い声を耳にした。

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