世界でいちばん、大キライ。
「譲る? なんで?」

その想像もしなかった冷たい声に、桃花は背筋が凍るような感覚に囚われる。

「だって、モモカの意志だし、オレだって惚れ込んだカノジョをやすやすと譲るつもりはないよ」

挑発するような目で言われた久志は、たじろぐことなく、無言でジョシュアに冷静な眼差しを向ける。
それから、桃花に視線を向けなおした。

「遅くなって、ごめん」
「え……?」
「金曜日、間に合わなくて、今になってごめん」

久志の言葉に、桃花はクラクラとした。

それは、どう聞いても、期待してしまうような言葉でしかなかったから。

【金曜日に来てくれたら、諦めない】

そう桃花は久志に宣言した。
そして、その金曜日に間に合わなくて、今になった、と久志は言ったようなもの。

「モモカ」

揺らいでる桃花の横顔に、一言ジョシュアが声をかける。
無意識に、呼ばれた桃花は体が少し、ジョシュアに動いた。

それを阻止するように、久志がクイッと桃花の腕をさらに引き寄せ、肩を抱く。
グラリと重心が後ろへ傾くと同時に、頭上から久々の声が桃花の胸に響いた。

「行かせない」

信じられない、といった思いで体のバランスを保ち、ゆっくりと久志を振り返る。
熱のこもった切れ長の瞳から、桃花は逸らすことも出来ない。
かと言って、飛び込むことも突き放すことも出来ない桃花は、逸る心臓を必死で抑えるように大きく息を吸った。
< 184 / 214 >

この作品をシェア

pagetop