世界でいちばん、大キライ。
【『気が向いたらな』なんて言って、逃げました。ほんと、逃げてばっかりなところ、変わってないかも】

ホッとしたような、がっかりしたような。
桃花は急に体の力が抜けて、ズルッと背もたれに寄り掛かる。

久志がなにか自分に向けてひとこと書いてくれていたなら、それは一生の宝物になりそうだ。
けれど、書いていたら、それを麻美に見られていたということになるし、それはそれで問題な気がした桃花は、そんな複雑な胸の内、続きを読む。

【あたしも春にアメリカに行くけど、その時まだ桃花さんもそっちにいたら、約束通り会いに行きます】

桃花はカサッと麻美の手紙を封筒にしまうと、心に最後の一文を刻み込んだ。

【――あたしのいちばんの、ラテを飲みに】

そろそろ搭乗しようと手荷物をまとめた時に、フライト前に最後に携帯をチェックした。
ホーム画面には、さっきまで気付かなかった受信メールの知らせがあって、無心でそのメールに飛びついた。

(もしかして――……)

期待すればするほど、落胆する度合いは増すということは理解しているはずなのに。
けれど、このタイミング、そして、直感。

【頑張って。でも、時々ちゃんと休むこと】

たったそれだけの文。
〝愛してる〟とかそういった甘い言葉はないけれど、十分に久志の思いが伝わってきた。

あれだけ了や母の前で泣かないように気丈に振る舞っていたのに、これだけのことで容易く涙を流してしまう。

涙で視界が滲む。
それでも桃花は前を向いて、機内へと足を向けた。


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