世界でいちばん、大キライ。
「……喋れるの?」
「え?いや、うーん……まだ勉強中なんだけど」

「ははは」と笑ってごまかすように答えると、今度は桃花が先陣を切って歩き出す。
麻美はそれについて行くように一歩後ろを歩いていく。

程なくすると、カフェから目と鼻の先にある久志の家に到着した。

「じゃあね」

そう言って桃花が踵を返して帰路につこうとした瞬間に、背中に初めて大きな麻美の声が飛んできた。

「ココア! ……美味しかった。ごちそうさま」

今日一番のその張った声に驚いた桃花は吃驚し、思わず勢いよく振り返る。
自分を呼び止めるように声を発した麻美を見れば、一度目を合わせた拍子に顔を逸らし、薄らと頬を赤らめていた。

麻美の反応は照れからくるものだと確信した桃花は、可笑しくてつい笑いを零す。

「……また、いつでも寄って? ココアくらいなら私にもごちそうしてあげられるから」

なんだか自分が麻美に認められたように感じて嬉しい桃花はそう言った。
〝認められた〟というのは久志が云々ではなく、単純に浅野麻美という女の子に、ということでだ。

素直になりたいけどなれない。

そんな雰囲気の麻美が、桃花はまるで幼い頃の自分を見ているようで。
甚だ勝手とは思いつつ、桃花は彼女に親近感を持っていた。

「……気が向いたらね」

上から目線の言葉を聞くと、ますますその気持ちは深まる一方で。
それを理由に終始可笑しそうに笑う桃花に、麻美は怪訝そうな顔をして首を傾げていた。

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