世界でいちばん、大キライ。
うたかたの恋


「ただいま」

いつもとほぼ同時刻に帰宅した久志は、珍しく揃えられた麻美の靴を横目にのっそりとリビングに向かう。
そこには変わらぬ光景……麻美がソファで寛ぎながらテレビを眺めている図があった。

カバンをダイニングテーブルの椅子に置き、ようやく窮屈なネクタイを緩めて息を吐く。

「……おかえり」

麻美と共に生活するようになった頃は、特に意識もしていなかったが「おかえり」と、素直に挨拶が返ってきたものだった。
それが、半年もすればその言葉はたまにしか耳に届かず……視線を一瞬合わせての〝おかえり〟サインが常だ。

だから今、麻美が久志に「おかえり」と発したことが珍しく、疲労困憊の久志でもそれらを忘れさせるほどの衝撃を受けた。

「……なに?その顏」
「あ……、いや。なんか、お前、ヘンじゃねぇ……?」

まるで、過去に遡ったような感覚に、久志は呆然としながら聞き返す。
そんな久志に、〝いつもどおり〟冷たくプイッと顔を背けた麻美は、なにも答えずにテレビを見る。

久志は自分が話しかけた言葉が宙ぶらりんのまま、『またか』とさして気にも留めずに部屋へ着替えをしに行こうとしたときだった。

「あの人……葉月さんて人に、ココアごちそうになった」
「……はぁっ?!」

思わずどこかのバラエティ番組のようにこけそうになるのを堪え、ワイシャツのボタンを外し掛けていたのも忘れて麻美を凝視する。

当の麻美は、ちらりとそんな度肝を抜かれたような久志を横目で見るだけで、さらりと付け加える。
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