世界でいちばん、大キライ。
(ここ、キッチン用品だけど、なに見てるんだろう?)

気付かれないようにそろりと近付き、久志が手に持ってるものを確認する。

「お弁当ですか?」
「わ!」

斜め後ろからの桃花の声掛けに、肩をびくっと上げて驚いた。
その〝見つかった!〟とでも言わん様子と表情は、まるで校則違反でもしてしまった学生のようで、桃花は堪え切れずにお腹を抱えて笑う。

「あははっ! そんなにびっくりしなくても! 不良が先生に見つけられたみたいでしたよ?」
「……不良……」
「給食じゃないんですか? 麻美ちゃん」

桃花は膝を折って、カラフルなお弁当グッズに手を伸ばすと久志に尋ねた。
動揺したのも落ち着いてきた久志は、一呼吸置いて手にしていた商品を元に戻して答える。

「給食。だけど、来週……いや、今週か。課外学習らしくて」
「ああ、それで」
「……こーゆーモン、欲しかったのかな……なんて。いまさら」
「え?」
「いや。あんたに言ってもしゃーねぇな」

苦笑してその場を去ろうとする久志の背中に、桃花は思わず声を上げた。

「麻美ちゃんはっ……」

「麻美」という言葉に驚いた目で久志が振り向くと、真剣な目で自分を見上げる桃花がすぐそこに立っていた。

「麻美ちゃんは、久志さんが用意してくれるものなら……それでいいんですよ、きっと」

なんでか一所懸命にそう訴えかける桃花があまりに意外で、すぐに順応出来ずにいた。
切れ長の目を大きくして、桃花を珍しいものを見るかのように黙って見つめていると、桃花は場を繋ぐようにもごもごと言葉を繋ぐ。

「あっ……でも、味も大事ですよね!」

そこまで口を滑らせてしまってから、桃花は慌てて自分の口を手で覆う。

(しまった! こんな言い方じゃ、まるでこの人が……)
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