世界でいちばん、大キライ。
久志と麻美が言葉を交わしているのを見たのは一度だけ。だが、それぞれと話をして、改めて久志と一緒にいると、麻美の話をするときに垣間見える顔があって。

〝心配〟と〝愛情〟と〝責任感〟。

そんなものが見え隠れしているように思えた桃花には、実父じゃなくとも父のような感じになっているのだな、と感じていた。

「あなたは、麻美ちゃんにとって、すごく大切な存在なんだと思います」
「……いや、お世辞はいいよ」
「本当に!」

断言するように桃花が言うと、それ以降久志は閉口してしまう。

「麻美ちゃんを見てたらわかります。いつも近くにいるあなたには気付きにくいのかもしれませんけど、麻美ちゃんは甘えてるし、感謝だってしてるはずですよ」

言い終わると、再び桃花は歩き出そうと一歩前へ進む。
しかし、すぐにまたその足を止め、くるりと久志を振り返りながら付け足した。

「絶対、将来、〝今〟という日々を思い出したとき、麻美ちゃんは〝幸せだった〟って思うはずです」

前に麻美について真剣に思い悩んでた姿。
それと、麻美が自分と出会ったことの心配から来た電話。そして、お弁当グッズの前で麻美のことを考えてた久志。

それらを思い返すと、桃花は自信を持って言えた。

「……そう、かな……そうだといーんだけどよ」

お世辞じゃなく心からの真剣な言葉に、久志も戸惑いつつ受け入れる。
不思議と出会って間もない桃花の言葉が、すっと心に浸透した気がした。


再び歩き進め、ソッジョルノが見えてきたときに、桃花が立ち止まりぺこりと頭を下げる。

「ありがとうございました。英語の件は、早番の日にでも、と伝えてください。メールします」
「あ、ああ……」
「もうここで大丈夫ですから。麻美ちゃんが帰ってくる前には、お家にいてあげてください」

丁重にそういう桃花に、久志は眉根を寄せて心底不思議そうに口にする。

「……なんであんた、そんなに俺たちのことを……?」
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