世界でいちばん、大キライ。


数日後のある日。

いつもと同じように仕事をしていた桃花は、客が引いて落ち着いていたので水回りやマシンの清掃をしていた。
時刻は夜の7時。街中とは違って、このくらいの時間になると、閑散とすることもある。

その時、普段あまりならない店の電話が音を上げる。

「ありがとうございます。カフェ・ソッジョルノです」

桃花がいち早く電話に応対する。
そして電話を終えると、直線上に立つ発注準備をしてる椎葉の元に歩み寄った。

「店長。清水様でした。ホットサンドとキリマンジャロを、って」
「わかった。ホットサンド作ってくる」
「すみません。私が届けに行きますから」
「え?大丈夫?」
「大体場所はわかりますから」

目を丸くして答えた椎葉に、ニコリと笑顔で桃花が返す。

ソッジョルノでは大々的には宣伝していないが、カフェから徒歩圏内の一部地域にデリバリーサービスを承っていた。
それはピーク時を避けた限られた時間のみの受付だが、近所の常連などがそれを知っていて、たまにこうして注文が入る。

ホットサンドの出来上がりに併せてドリンクを用意すると、桃花は冷めないように保温バッグにしまって足早に届け先へと向かった。

(徒歩圏内だけっていうから助かる。私、免許持ってないし)

ちょっと古めのアパートマンション。
4階建の3階に、届け先である客の部屋がある。

桃花は薄暗い階段を昇り目的地の3階に辿り着くと、表札を確認して呼吸を整える。そうして営業スマイルの準備をして、インターホンに手を掛けた。

小さな窓が2、3つしかない薄暗い廊下に呼出音が小さく聞こえると、家主からの応答があるまで妙な緊張を感じてしまう。
せっかく笑顔の準備をしていた桃花は、その間また少し強張った顔で黒いドアの前に立っていた。

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