世界でいちばん、大キライ。
二度目に外で遭遇したときから久志は疑問に思っていた。
冷やかしてるようにも思えずに。『だったらなんで』とわからないままだった。

久志は、桃花くらいの若い女性が自分に興味があるだなんてことは毛頭ない。
麻美に興味を持っているのかと思って、少し警戒したものの、悪意を感じることもない。
ただの行きずりの男の元にいる麻美に執着する理由もあげられない。

じっと小柄な桃花を見つめても、その答えは出ることはない――。

「家に帰ったとき、誰かがそこにいてくれる嬉しさ……私にもわかるつもりですから」

淋しげに笑って小首を傾げるように言った桃花に久志は目を奪われる。
ボーッとそのまま桃花を見ていると、今度はニコリといつもの明るい笑顔を向けられた。

「純粋に、ふたりの役に立てたら……って思ったんです」

桃花は睫毛で瞳を隠すように軽く伏せて、前髪を整えるように左手で触れる。

「……慈善事業が好きとかじゃないです。誰でもこうしてたわけじゃなくて」

小さな顔、華奢な身体。
実年齢は知らないが、目立った化粧もせず、幼く見える容姿。
言ってみれば、麻美に対する感情の延長線上のようなものだったはず。

けれど、今目の前の桃花の雰囲気に久志は、それが覆されそうな予感がする。

「麻美ちゃんのこと……〝ついで〟とかそういうんじゃないです」

そして、その長い睫毛が上向きになるのと同時に、真剣な瞳に久志は射られて息を飲んだ。

「でも……」

今まで、おそらくかなり歳下で、言ってみたら多少〝コドモ〟のようにも扱ってしまっていた桃花が。
大人の女の表情に変わり、心を掻き乱すような瞳で信じられない言葉を口にした。

「あなたが、好き……みたい……なので」

頭を鈍器で殴られたくらいに衝撃的なものだった。
少しも考えもしなかった。

おそらく10は違うであろう歳下の女の子に、まさか自分が告白されるだなんて。

さらに、告白なんて場面に遭遇したのはもう何年も前のこと。
久志はそのブランクも手伝って、まったくといっていいほど頭が回転していなかった。

桃花は桃花で、まさか自身でもこのタイミングで告白してしまうだなんて……という誤算で動揺していた。
それでも言ってしまったことは取り消せないし、口にしたことは事実だ、とそれ以上なにも言葉を重ねなかった。

しばらくお互いに沈黙する。
冷静に考えて、やはり突然過ぎた、と後悔して久志を繋ぎとめようと桃花が息を吸ったとき。

「……正直……今、余裕ない。……ごめん」

秋風とともに桃花の耳に届いたのは、心が凍るようなものだった。
< 40 / 214 >

この作品をシェア

pagetop