世界でいちばん、大キライ。
「ごめんね! 待たせて」
数十分後、いそいそと麻美のテーブルに来た桃花は、カフェラテを手にしていた。
なみなみの水面にリーフを描いたカフェラテをそっと置くと、桃花は麻美の向かいに腰を下ろす。
「なんか、私が教えるなんて出来なさそうだけど……だから、一緒に勉強しようか」
カバンから数冊の本とノートを照れながら出すと、麻美が桃花のカップを眺めながら言った。
「……かわいい」
「あ、これ? ちょっと失敗しちゃったんだけどね」
「自分で淹れたの……?」
「そう。これがやりたくて……勉強出来たらな、って思って。それで英語も頑張ってみようと思ったの」
目を愛しげに細めて自分が描いたラテアートを見つめると、桃花はカップを引き寄せた。
「麻美ちゃんは、来年のために勉強したいって思ったんだよね? でも、それならちゃんとしたスクールとかの方が良かったんじゃない?」
首を傾げて尋ねると、麻美は頬づえをついて窓の外を眺めながらボソリと答える。
「……時間を拘束されるのがイヤなの。限られた時間しかないから……あたしは友達とかと一緒にいる時間の方が大切だから」
たまに通る人を目で追いながら麻美が言うことに、桃花は自分なりにその意図を理解する。
卒業まで日本(ここ)にいたいというのは、おそらく慣れ親しんだ学校で、親しい友人と共に区切りをつけたいからだろう。
それが理由なら、めいっぱいそっちに時間をあてるというのが麻美の答え。
そんなときに、自分というたまたま都合の良さそうな人間が現れたから、麻美はここに来ることを選んだのだ、と桃花は頷けた。