世界でいちばん、大キライ。

「そっか。私は暇人だから! なんていうの? こういうの。非リア充?」
「……フツーそういうこと、そんな笑顔でいう? ホント変な人……」
「あ。下の名前で呼んでもいいから。好きにしてね」
「……」

呆れるような目を向けながらも、今まで出会った大人の女性とはまるで違う雰囲気の桃花に、完全に警戒心が抜ける。

きっかけはどうであれ、今目の前にいる人は、久志を抜きにして向き合ってくれていると思うと、少し気恥ずかしい思いになっていた。

「自信ないけど……私の勉強方法!」

そう言って桃花はテーブルに数冊の本と、自らプリントアウトして纏めたファイルを広げる。
置かれた本はどれもボロボロで、何度も何度も読み返していたことを思わせる。

目を見開いてそれらに視線を落とす麻美に、桃花が話し始める。

「日常で使えるものが中心に載ってる本。私はこれ、全部覚えて、それと……」
「ぜっ全部?!」
「え? あ、うん。あ! でも、ほら、私もう何年も同じ本見てるから。あはは」

あっけらかんと笑いながら言う桃花を、珍しいものを見るような目を麻美は向ける。
桃花はその中で一番くたびれてる一冊を手に取ると、ぱらぱらとページを捲りながら、なつかしむように目を細めた。

「……思い出の一冊。これを買ったとき、すごい夢で満ちてたなぁ。あ、一応今もその夢、持続させてるつもりだけど」

その目標に向かう桃花の姿が、麻美の脳裏に焼きつく。
まるでコドモのように希望に満ちた表情をする桃花が、あまりに印象的すぎて……。

「あ、あとね。ラジオとか聞いたり、家で一人で口に出したり。あ、あとコレも」
「……?」

カバンから取り出したのは、アメリカのホームコメディDVD3巻。
それを見ては、麻美はまた目を瞬かせるだけで言葉が出ない。

< 43 / 214 >

この作品をシェア

pagetop