世界でいちばん、大キライ。
そのループに神経を無意識にすり減らしていたから、こんなふうにただ単純に言葉を交わしながら何気なく笑える相手が貴重だった。
笑顔の奥に曇ったものを見つけた麻美は、DVDをテーブルに置くと6年生とは思えない落ち着いた声で言う。
「……逃げられたんだ? ……ヒサ兄に」
「えっ……」
ドキッとして顔を上げると、見透かしたように黒目がちの瞳を真っ直ぐに向けられる。
こんな大人の事情を、しかも近しい間柄の麻美に言っていいものかと困惑していると、麻美が涼しい顔でこう続けた。
「そんな気を遣わなくても。知らないの? イマドキ小6にもなったら、つきあったことあるコがほとんどだし」
「え! うそ!」
(私の時代は早くても中三とかそのくらいだったのに!)
いろんな意味で驚愕した桃花は絶句し、空いた口が塞がらない。
茫然としたままの桃花を余所に、麻美はココアを口に運びながら淡々と話す。
「っていうか、2,3日前からヒサ兄も明らかにヘンだったし」
「へ、ヘン……?」
「まったく。あれで35になるっていうんだから笑っちゃう」
ず、っとココアを飲む姿を見つめ、この期に及んで、久志のちょっとした情報ですら反応してしまう桃花がいた。
(35……意外に歳上だった。歳より全然若く見える)
話をした感じや、仕草。笑った顔を思い出しては、表情を緩めてそんなことを考えてしまう。
温かい手を鮮明に思い返しているときに、ぱちっと麻美と目が合って、慌てて記憶を掻き消した。
「で、でも、ほら。やっぱりそういうのって……麻美ちゃん、内心面白くないんじゃないかなぁー……なんて……」
目を逸らしてカップを両手で包み込み、それをゆっくりと口元に運びながら白々しい言葉を並べる。
桃花はなんとなく思うことがあった。
出会ったときから時折感じていたことが。