櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
「ジンノさん、エンマを知っているんですか!!?」
今まで、王宮でエンマのことを知っているのは自分だけだとばかり思っていた。
「まあ、......昔からのな。随分と会っていなかったが」
それなのに、長く共に過ごしていた相手が知っていたなんて。
突然の事実に驚き、呆然と固まってしまう。
そんなオーリングを他所に、二人は話し始めていた。
「......ここを影の空間に閉じ込めました。何を話しても安全です。オーリング様も私めのことは存じてらっしゃいますよ」
「......その様だな」
ジンノは睨むようにエンマを見つめる。
「突然家を出て、一体何処へ行ったのかと思っていたら......いつから王宮にいた?今、一体何処で何をしている?」
いつもはオーリングに対し仕えているような態度をとっているが、ジンノに対しては敬語を使ってはいるものの、態度はまるで対等だ。
「王宮にある『影の部屋』に」
その言葉にジンノは眉を上げる。
「『影の部屋』だと?ここにもあったのか......」
「こちらの方が先ですよ。それに『影』はどこまでも広がっています、どこにだって『影の部屋』は作ろうと思えば作れますよ」
エンマはそう言うと、てくてくと歩いていき、ぴょんっとベッドに飛び乗った。
そして、ルミを気遣うように見つめ、小さな手で白いその頬をなでた。
「ルミ様......ご無事でよかった」
その姿を見たジンノは不可解そうに眉を顰める。
「エンマ......この子を知っているのか?」
その問に、先に反応したのはオーリング。
「彼女が......ルミちゃんがやって来たのは半年ほど前だ。王宮にいるようになってすぐ、エンマとルミちゃんは出会った。いや......出会ったというより、エンマから会いに行ったという方が正しいかな......」
エンマをじろりと見ながら、嫌味のように言う。
「彼女は別の世界からやって来たと言っていた......。彼女は俺達とは何の関わりもない
でも、エンマと彼女が会った時には既に、この国の事件に巻き込んでしまっていた。だから......もう、彼女をこの国のことに巻き込みたくなくて、最初はもう関わらせないようにエンマと彼女を切り離したんだ」
ジンノは黙ってオーリングの話を聞いている。
「だけど...」そう言ってオーリングは、ルミの頭を優しくなでながら困ったように笑った。
「...だけど、ルミちゃんは自分で影の部屋へ向かったんだ。今度は、自分の意思で......
そうされたら、もう俺はどうしようもないだろう?」