櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
それ以来、彼女が毎日のように影の部屋へ、足繁く通っていた事は知っていた。
部屋で眠る主、シェイラもそれを望んでいたことも。
二人を繋ぐ特別な何かが存在していることも。
オーリングの思いがそれに適わないことも。
「......あの日も、彼女は影の部屋にいると思ってた。
無意識のうちに安心していた......油断してたんだ
だから彼女の傷は、俺のせいなんだ」
後悔で苦しむその背中を見つめ、少し考える素振りを見せたあと、オーリングに話しかけた。
「......オーリング、お前の思いは分かった。
......だが、一つだけ聞いていいか?この子が、別の世界からやって来たというのは...どういう事だ?」
その質問に疑問を抱きつつも、オーリングはルミとの出会いやこれまでに起きたことを知る限り、ジンノに話した。
勿論、ユニコーンのノアの事も。
全て聞いたジンノは動揺したのか、瞳が僅かにぶれる。
その後に、畳み掛けるようにエンマが続く。
「私めがジンノ様の前に再び現れたのは、ノアが戻ってきたからですよ
だから、確信したんです.........ジンノ様だって分かっているはず。本能が、貴方の記憶がそれを示している筈です!」
揺れる黒い瞳が、眠るルミの元へと注がれる。
その目は大切な何かを見ているようで、オーリングが今まで見たことない程柔らかで優しい表情をしていた。
ジンノの美しい手がルミを優しく包む。
そして
「......! ジンノ...さん......」
オーリングが息を呑む
その先に、あったのは
「...おかえり...ルミ」
目に涙を浮かべて、不器用に微笑むジンノだった。