櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
まさに青天の霹靂。
魔王ジンノが笑うなんて。
7年一緒にいたが、少しもニコリとしたことすらなかったのに。
「......一体二人は、どういう関係なんですか?」
たまらず、オーリングはジンノに尋ねる。
さっきまでの笑顔はないものの、和かい表情のままのジンノはルミを見つめながら言う。
「......ルミア...ルミア・プリ―ストン
彼女は、俺の妹だ」
「え......妹!? ジンノさんに妹がいたなんて、俺......」
その事実に、困惑の表情を浮かべるオーリング。
ジンノは、そんな様子のオーリングに向き直り、その目を見る。
その時にはもう、ジンノの顔は今まで通りの冷たい無表情に戻っていた。
「お前が知らなくて当然だ
......俺の妹は、10年前に、死んでいる」
「......」
オーリングは一瞬、彼の言っている意味がわからなかった。
だって、目の前で眠っている少女を自分の妹だと言っているのに、その妹は10年前に死んだと言っているのだ。
じゃあ、目の前のこの子は何だというのだ。
「話せば長くなる......妹は年の頃12で亡くなった。その頃、国で騒がれていた殺人鬼によってな」
丁度、10年前。小さな子供ばかりを襲う殺人鬼がフェルダン王国に現れた。
それも魔力を持った十歳前後の子供ばかり。
突如行方不明になった子供達は、数日後王都内の裏路地や森の中などで見つかる。
様々な暴行を受け、ボロボロになった酷い状態で。
それが女の子であれば、性的な暴力を受けていたりもした。
多くの子供が犠牲になり、親達は悲しみにくれた。
衛兵達が血眼になって犯人を探したが見つけることが出来なかった。
特殊部隊達も尽力したが、ちょうどこの頃、隣国での戦いが頻繁に起こっていた為、充分に力を尽くせる状況ではなかった。
当時、ジンノは15歳、ルミアは12歳。
魔法学校に通う二人は、まだ幼いながらにして、その魔力、知性、戦闘能力全てに於いて誰一人近寄せないほどの実力を誇っていた。
そして、どちらも麗しい美貌を持っていた。
一人は艶やかな黒を、一人は透けるような白の髪を湛えて。