櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ




(じゃあ、あの左眼は、その時の......!)



ジンノは、いつも目もとを隠すようにサングラスをかけたり、左眼を髪で隠すようにする。



オーリングは一度気になって、見せて欲しいと頼んだ事があった。



その時見たのは、眼球そのものが赤黒く血のように染まった物で、そこに瞳は存在していなかった。



「...気味が悪いだろ」だから見せないようにしてる。そう言って、言葉を無くしたオーリングを気にせずに平然としていたのだが、その秘密がそれだったとは。



ジンノの長い話を聞き終わったオーリングは聞いてみた。



「その殺人鬼は............」



それを聞くと、ジンノは口元を少しだけ引き上げ、鼻で笑う。



「俺の妹だぞ、なめんなよ...
ちゃんとルミアは、闘ってた」



あの後、ルミアの手が何かを握っているのが発見された。



それはプリーストン家の家紋の入った、ジンノとペアの指輪とそれに繋がった魔力で練られた糸で



白いその糸は手から続いていき、指輪を持ってその糸のあとを追っていった衛兵は、殺人鬼を発見し、そして捕えた。



指輪を持つものしか辿ることのできない糸で殺人鬼を繋ぎ止めたルミア。



恐らく、力を失った者から取り外す予定だったのだろう《石》を壊した、ジンノ。



二人の功績は大きかったが、同時にジンノにとって、失った物は大き過ぎた。



ちょうど、そのすぐ後だ。



ジンノが特殊部隊に正式に入隊したのは。



「......ちょっと待って下さい。でも、じゃあ
それが、ルミちゃんと、どう関係が......」



そう。



目の前のルミと、12で亡くなったルミア・プリーストンがどう関係しているのか。



「あくまで仮説の段階だ、証拠はまだ、ない」



ジンノはオーリングを見つめ、そう言う。



仮に同一人物だとして、噛み合わない部分がある。



二人の年齢があわないし、ルミにはこの世界の記憶がないのだ。



ルミはオーリングに17歳だと言っていたが、話を聞く限り妹のルミアが生きていれば22歳になっている筈だ。



5年という時間のズレがある。



「それは問題ない、いや、むしろ良い」



ルミアの遺体が発見されて、衛兵が離れた後、ルミアの遺体は忽然と消えそこには雪の塊が残っていた。



強大な魔力を持つ者は時に、時空すら歪めてしまうという。



皆は魔力だけを雪と化して残し、体は消滅してしまったと言っていたが、ルミアの死を心の底から受け入れられなかったジンノは可能性を考えた。



もしかして、ルミは時空を歪め、別の世界に行ったのではないかと。



時空を渡ると、歪みがかかり、時間軸がずれるという。



だからこそ、ルミとルミアに時間的なズレが生じていても良いのだ。



< 108 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop