櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ




「......オーリング、これから時間はあるか?」



「え?あ、ありますけど......」



「だったら1時間後、ルミア...ルミを連れて闘技場へ来い」



突然そんなことを言われ、戸惑うオーリング。



ルミの怪我は既に治ってはいるものの、目が覚めていない以上安静にしておきたいのが正直な所。



だが、おそらくジンノにも考えがあるのだろう。



「......分かった」



それを聞くと、一度だけ頷いて、ルミの手を優しく握り部屋を後にした。



その後ろ姿を、エンマは静かに見続けていた。
















『ごめんなさい、今日は行きますね。また明日っ』



笑顔でそう言って別れたのはつい三日前。



部屋の外で何かあったのか、窓から覗く庭にいるノアと少し話したあと、慌てるようにルミは影の部屋を出ていった。



だが、つぎの日彼女が来ることはなかった。



そして、国王の襲撃事件が起こったのを、シェイラが知ったのはその後だった。



当然、彼女が怪我を負ったことも。



エンマに教えられたとき、シェイラは思わず彼女の元へ行こうとした。



この数ヶ月でようやく普通に歩けるようにもなった。



ベッドから降り、駆けるように扉へと向かう。



しかし、エンマの声がそれを遮る。



「お待ちください!!貴方が出ては行けません!!」

「......!!! でもっ!!!」



悔しそうに顔を歪ませる。



部屋から出たい。出て、ルミに会いに行きたい。



「もし、外に出るのであれば!
全てを背負って生きる覚悟がおありですか!!」



でも、そうなのだ。



もし一度でも外に出れば、もう後戻りはできない。



今まで隠れて生きていた。



自分の運命を受け入れる覚悟がなかったから。



そして今でさえ。



どさりとベッドへ腰を下ろし、頭を抱える。



「......くそっ!!!」



悔しい。



やっと大切にしたいと思うものが出来たのに。



(やっと!......あの時からやっと前に踏み出せると思ったのに!!)



覚悟ができない自分が、悔しい。



この部屋から外に出ることのできない自分が、情けなくて悔しい。



結局、その日は外に出ることは出来なかった。



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