櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
「......オーリング、これから時間はあるか?」
「え?あ、ありますけど......」
「だったら1時間後、ルミア...ルミを連れて闘技場へ来い」
突然そんなことを言われ、戸惑うオーリング。
ルミの怪我は既に治ってはいるものの、目が覚めていない以上安静にしておきたいのが正直な所。
だが、おそらくジンノにも考えがあるのだろう。
「......分かった」
それを聞くと、一度だけ頷いて、ルミの手を優しく握り部屋を後にした。
その後ろ姿を、エンマは静かに見続けていた。
◇
『ごめんなさい、今日は行きますね。また明日っ』
笑顔でそう言って別れたのはつい三日前。
部屋の外で何かあったのか、窓から覗く庭にいるノアと少し話したあと、慌てるようにルミは影の部屋を出ていった。
だが、つぎの日彼女が来ることはなかった。
そして、国王の襲撃事件が起こったのを、シェイラが知ったのはその後だった。
当然、彼女が怪我を負ったことも。
エンマに教えられたとき、シェイラは思わず彼女の元へ行こうとした。
この数ヶ月でようやく普通に歩けるようにもなった。
ベッドから降り、駆けるように扉へと向かう。
しかし、エンマの声がそれを遮る。
「お待ちください!!貴方が出ては行けません!!」
「......!!! でもっ!!!」
悔しそうに顔を歪ませる。
部屋から出たい。出て、ルミに会いに行きたい。
「もし、外に出るのであれば!
全てを背負って生きる覚悟がおありですか!!」
でも、そうなのだ。
もし一度でも外に出れば、もう後戻りはできない。
今まで隠れて生きていた。
自分の運命を受け入れる覚悟がなかったから。
そして今でさえ。
どさりとベッドへ腰を下ろし、頭を抱える。
「......くそっ!!!」
悔しい。
やっと大切にしたいと思うものが出来たのに。
(やっと!......あの時からやっと前に踏み出せると思ったのに!!)
覚悟ができない自分が、悔しい。
この部屋から外に出ることのできない自分が、情けなくて悔しい。
結局、その日は外に出ることは出来なかった。