櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
闘技場に近づくにつれ、噂を聞き付けた衛兵が増える。
そんな衛兵たちもアルマとエルヴィスを目にすると慌てたように敬礼をして持ち場に戻っていった。
「なあ、アルはこの話、本当だと思っているの?」
足早に歩くアルマの隣を歩きながらエルヴィスは尋ねる。
「............」
浮かない顔をするエルヴィスを見ようともせず、何も答えようとしないアルマ。
「セレシェイラ王子は八年前に亡くなったんでしょ。兵士の見間違いじゃないの」
だが、その台詞にピクリと反応する。
「............エルは、知らないのか?」
そんな風に返されると思っていなかったため、エルヴィスは興味深げにアルマを見つめた。
「どういうこと?」
目を伏せながら速度を緩めずに歩き続ける。
目を伏せるのはアルマの何かを頭の中で整理している時の癖。
こういう時はこちらが何を言おうと聞いちゃいないから、話しかけても無駄だ。
黙って横を歩きながら、アルマがこけないように前だけは注意してやるエルヴィス。
放っておくと壁にぶつかったり、階段に気付かずに転げ落ちたりを平気にするものだから、気が気ではない。
頭はいいのだが、ドジな、憎めない従兄なのだ。
その従兄が、ふと前を見た。
(あ...考えまとまったかな)
「で、どういう風に考えてるの?賢者アルマ様は」
にやりと笑いながら計ったように言うエルヴィスに、呆れたように溜息をつきながら、その足を止めて彼に向き直る。
「......そう呼んでるの、お前だけだよ?」
恥ずかしくないの?と頭一つ分背の高いエルヴィスに問う。
本人は、ハハッと機嫌のよさそうな笑い声をあげて、誇らしげに言うのだ。
「そりゃあ、俺だけの、賢者様だからね」
そして、アルマの頭を撫でる。
むすっと不機嫌になるアルマを気にもせずに。