櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
「ジンノさんのあんな笑顔見たことない......」
オーリングは闘技場の隅に座り込みながら思わず口に出してしまう。
シェイラもそれを感じていた。
長く会っていなかったが、ジンノのことはよく知っている。
幼いころから。
「本ッ当に楽しそうに笑うなあ......」
自分は睨まれてばかりだった。
自慢ではないが彼には嫌われていた記憶しかない。年を重ねるごとにそれは酷くなっていった気がする。
笑うジンノなど、一瞬たりと見たことがなかった。
なおも兄妹喧嘩と言う名のやり合いを続けるジンノとルミ。
「昔はよくお二人でああやって遊んでおられました」
そう言いながら楽しそうにその光景を見つめるエンマだが、シェイラを始めアルマ達やオーリングの目にはとても遊んでいるようには見えない。
どちらかと言えば、最上級魔法使い同士のとんでもない戦いだ。
伝説ものと言っても過言ではない。
観覧していた魔法使い達は、興奮状態でそんな二人の喧嘩を見続けていた。
半刻近く全力の喧嘩を続けたせいか、はあはあ、と二人の息が乱れる。
(もう、限界か......)
本音を言えばもう少しこうしていたいが、目の前のルミアの動きが鈍ってきた。恐らく一時的にルミからルミアに変わっている状態であるため、長く持たないのだろう。
「はあ、はあ......ルミア!」
〈ダーク〉スピーネ
「!!」
突然名を呼ばれて気をとられた瞬間に、黒い糸がルミの全身の絡まり動きを封じる。
「時間切れだ また、会おう」
これまでにない、極上の笑みをルミに向け、ジンノはその手をかざした。
──神の元に集いし者よ 我に、汝の真実を示せ──
〈テクネ〉!!
呪文を唱えると同時に、ルミの額が青く光りだし
眩いほどに輝くそれは徐々に形を露わにし始める。
「あれは...!」
白き環の中に浮かぶ、プリ―ストンの家紋。
オーリングも初めて目にするその紋章に目を奪われる。
それは《悪魔》の横顔。
しかし、その背にあるのは悪魔には似ても似つかぬ《純白の翼》
恐ろしく、けれど美しいその姿
「...プリ―ストンの...聖者オルクスの一族は、死神の一族と言われておりました」
まるで昔話をするように、エンマは静かに話し始めた。