櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
カタン
「それじゃあ、俺は行くね」
また見舞いに来るから。
そう言ってイスから立ち上がるシェイラをルミは見上げた。
「よく休んで、早く良くなって。
今のところ、会うときはいつもどちらかがベッドに横になっているからね」
確かに、影の部屋にいたときはシェイラが、そして今はルミが。
「本当ですね、早く元気にならないと!
ありがとうございます、シェイラさん」
白い病室に、ルミの元気な声が響く。
その声に応えるようにシェイラには笑顔が浮かぶ。
「最近は夜すごく寒くなるから風邪を引かないように」
「はい。シェイラさんこそ病み上がりなんですから、無理はなさらないで下さいね」
互いに気遣い合う様子は少しばかりおかしく、2人はクスクスと笑いあった。
「はは......それじゃあ、また」
ひとしきり笑いあった後、ルミに背を向け病室を出ていこうとするシェイラ。
「......シェイラさん」
「ん?」
彼の背中は何故だかやけに心細そうで、ルミはその背中に無意識のうちに声をかけていた。
不思議そうに振り返るシェイラ。
そんな彼に向かって、自然と心に浮かんだ言葉を続ける。
「私はいつでも貴方の見方ですから」
「......っ!」
「友達、なんでしょう?」
「ルミ......」
「一人だなんて、思わないでください
...少なくとも私は貴方の傍にいます、早く元気になって傍にいれるようになります、だから......」
「ありがとう、ルミ」
彼の大きな手が、言葉を言いかけたルミの頭をゆっくりと撫でる。
その表情は今まで見たことがないほどに優しくやわらかい。
ほんのりと頬を染めて、目を細めてルミを見つめる。
「本当に、ありがとう。君のその言葉だけで俺は、強くなれる......ゆっくりお休み、そして元気な姿を俺に見せて」
頭に乗せられていた手が頬へと伸び、そして壊れ物を扱う様にそっと触れる。
ドキッ
自分を見つめるその表情がやけに甘く感じられ、ルミの胸がしびれるように音を鳴らした。
最後にもう一度微笑んだあと、病室を出ていくシェイラ。
立ち去る彼の背中は先程よりも力強く、凛としているように見えた。