櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
─────────
「それじゃあ、今まで聞いたことをまとめると......
君の名前は『ユキノ ルミ』
生まれは『ニホン』
向こうで風に吹かれて海に落ち、そこからの記憶がない
どうやってここに来たかも、
ここが何処かも良く分からない
ってとこでいい?」
あれからゆっくりと今までのいきさつを、青年─オーリングに話した。
明らかに遅すぎるほど、たどたどしい話だったにも関わらず、彼は真剣に聞いていた。
何も言葉を挟むことなく。
すべてを話終わったあと、オーリングはようやく口を開いた。
「ニホンかぁ。
聞いたことない国だなあ、俺に学はないし。ジンノさんに聞いたら分かるかな…」
ブツブツと何やら考えているようだが、ここの国はとりあえずニホンではないらしい。
そのことが事実なら私はどうやってここに来たのか、どうしてここに来なければならなかったのか。
良く分からないことが多過ぎる。
だいたい、ここはどこなのだろう。名前は存在する場所なのだろうか。
するとルミの疑問を察したようにオーリングが
「あ、ここはね、フェルダン王国。
この世界でも大きな影響力のある国だよ。そんなに国自体は小さいんだけどね」
説明し忘れたと言いたげに教えてくれた。
「うーん、大体のいきさつは分かったけど、よくよく考えると大変だったねぇ」
さっきまでの真剣さは薄れ、へらへらとしたオーリングに戻る。
その様子に私も少しだけ気が抜けた。
すると
ぐぅぅぅ〜
お腹が盛大に鳴った。
いくら私でも流石にこれは恥ずかしい。
今日初めて会ったばかりの人の前で無神経にもお腹を鳴らしてしまうとは!
「っ〜〜〜〜」
「っはははは!!」
案の定、オーリングは大爆笑。
すっかり赤面したルミ。
でも、これではっきりした。やっぱり私は生きてる。
海に落ちてどうして生きてるのか分からないけど。
でも、死んではいない。生きてるんだ。
「あ〜、笑ったぁ!
うんうん、お腹減ったよねぇ
まあ、今後のことはこれから考えるとして、少し遅めの夕飯にしますかあ!」
嫌味なくらいニコニコと笑いながら、私の肩をポンポン叩く。
さあーて準備しよ、とオーリングは立ち上がり、背伸びをした。
「まず、魚でも釣るかねえ」
えっ?魚?
川があるの??
無いとばかり思っていたのでその事実に驚いてオーリングを見上げる。
「ん?ルミちゃんも着いて来る?」
「あ……はい」
「よし!行こう行こう!」
そう言って楽しげに歩き出したオーリングの後をボーゼンと眺めつつ、「ルミちゃーん、行くよおー」と言う声にはっと我に返って慌てて追いかけるのだった。