櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
(え、何かって......)
突然そう言われて、戸惑いながら記憶の中を探すが思い当たるものはない。
「......ごめんなさい」
「...ならいいんだ、気にするな」
申し訳なさそうに落ち込むルミに、気を落とすなと言わんばかりに優しく微笑むジンノ。
サングラスで目もとは分からないものの柔らかい表情なのはひと目で分かった。
(いつも、そんな顔してればいいのに......)
曲がりくねった路地を歩きながら、ルミはジンノを見つめる。
指輪を見て、何か思い出さないかと聞いたということは、あの指輪が自分と何かしら関係があるということ。
(どうして思い出せないのよ...)
自分の事なのに思い出せないことが、こんなにも歯痒く感じる。
自らの情けなさで肩を落とし落ち込むルミ。
伏せられた長いまつげがルミの白い頬に影を落とす。
「顔を上げろ、ルミア」
「!!」
ジンノの声ではっと顔を上げると、目の前に小さな教会が。
いつの間にかノアもその歩みを止めており、裏路地から抜けて少し進んだところにそれはあった。
小さいが繊細な装飾と、質素だが手入れの行き届いた美しい教会。
「ここが...ジンノさんの...」
「ああ、"俺達"の実家だ」
ガチャ
ジンノはそう言うと、鍵を取り出し扉につけられた錠前にそれを差し込んで扉をあけて中に入っていく。
ノアから降り、そのあとを追うルミ。
恐る恐る教会の中を覗くと、ルミは思わず声をあげた。
「うわあ......! 綺麗......」
教会の中の祭壇のその奥。
そこにあったのは色とりどりのガラスが埋め込まれたステンドグラスだった。
聖母がデザインされたそれは外の光を取り込み一層美しく輝く。
そこだけではなく、小さな窓にもステンドグラスが当て込まれ、そこから降り注ぐ光が色を帯びて教会の中を照らしていた。
長椅子のあいだをゆっくりと歩き、祭壇の前に立つジンノのそばへと向かう。
そして
「あ、」
彼が見上げるその先をたどり、初めてルミは目にした。
白亜の女神と言う名の、その像を────