櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
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ルミアは長い長い廊下の真ん中にいた。
そこはフェルダン=ルシャ王都の魔法学校。
ルミアは十歳になっていた。
カツン、カツン...
長い廊下にルミアの足音が響く。
周りの生徒たちは、この世ならざるものを見るかのような怯えた目で、廊下を歩く彼女を見ていた。
声をあげて教室へと逃げ帰るものたちもいる。
「近寄っちゃダメよ...殺されちゃうから」
「特殊部隊の方々に喧嘩売ったって本当?」
「本当らしいよ、庶民の分際で......」
「この前の試験試合で先生の一人が『あれ』の相手をして大怪我負ったんですって」
「恐ろしい...」
「そこにいるだけで近くにいる人たちを傷つけていくんだわ」
「あれは『化物』よ」
わざと、聞こえるように言っている。
でも、もう慣れてしまった。
『化物』
皆、ルミアを見るとそう言う。
当然のように。
誰一人、もちろん先生さえ、ルミアの近くには寄らない。
いつもたった一人。
それでも良かった。
もうどうでも良かったのだ。
他人にどう思われようが、どんなに嫌われていようがそんなことはどうでも良かった。
ルミアの心は冷え固まって、もう何も感じることはなくなっていた。
ただ誰かに必要とされたい。
それだけなのに。
「ルミア」
廊下の先に立ち自分の名を呼ぶ人。
「...兄さん......」
その人の元へと近づきたくて歩いた。
唯一、名を呼んでくれる人のもとに。
いつか
いつかきっと、彼も離れていく。
離れていってしまう。
それを分かっていながら、そうなってほしくなくて
運命に抗うように、ルミアは歩いた。
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