櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
「ユーベル様っ!!
東のローゼ地区に特殊部隊のアポロが現れました!!」
「西のリーリエ地区にも特殊部隊のイーリスとネロが!!」
「王宮前広場で特殊部隊隊長アイゼンが暴れております!
我々の手に負えません!!」
「なっ...何故だ!!?」
ユーベルの顔からサーっと血の気が引いていく。
それもそのはず。
特殊部隊の騎士たちは目の前にいる二人を除き、まだ誰も帰って来ていないはずなのだから。
意図的に王国の外に出された特殊部隊の騎士たちには監視がついていた。
何かしらの動きがあれば報告が入るはず。
しかしそれはなかった。
つまり
(本当に我らの計画が漏れていたという事か!?)
愕然とした表情でジンノを見上げる。
嘲笑うようにこちらを見るその姿に、冷や汗が伝う。
(焦るでないっ!当初の目的は果たしたのだ!)
セレシェイラの暗殺、それが第一の目的だった。
王宮を襲うことはそのカモフラージュに過ぎない。
まだ大丈夫。
何度もそう自分自身に言い聞かせた。
だが、ジンノの恐ろしさは留まることを知らなかった。
「ほぉら、計画が狂い始めただろう?
ついでにもう一つ、いい事を教えてやろうか」
その昔、《神》に心を奪われた醜き一族聖者《オルクス》は、脅威の力を誇っていた。
しかし人々は、それを恐れた。
その人ならざる強さを。
それは聖者《オルクス》本人も同じで。
いずれ身を滅ぼすことになるだろうと、恐れたのだ。
「だから、俺達の祖先...当時の《オルクス》の騎士は、大きすぎる力を封印しようとしたんだ」
彼らは、強大な魔力を体内から取り出すことに成功した。
しかしそれを封印する際、予期せぬことが起こった。
魔力が二つに別れたのだ。
そして、それらは形をなしていった。
一つは白い羽をたたえた美しく神々しきものに。
もう一つは闇を身に纏った姿かたちを持たぬものに。
「残虐な悪魔にも、慈愛に溢れた天使にも成り切れない...我ら聖者《オルクス》の醜く歪んだ魔力がそれぞれのあるべき姿に別れた」
それは互いに意志を持ち、永久に聖者《オルクス》と共にあることを誓った。
そして姿を変え、今も尚プリーストンと共に、王家フェルダンに忠誠を尽くし仕えている。
「一方は貴様も知っているだろう
穢れなき純白の肢体に、気高い一本の角を持つ」
神聖視されるほどに美しいその姿。
一度見れば、忘れることはないだろう。
話を聞いていたオーリングは、その正体に思い当たり目を丸くする。
「一角獣のノア、ですか」
「ああ。あれは仮の姿だが、よっぽど気に入ったのかもう数十年あのままらしい」
ならば、もう一方は
心当たりがあるオーリングは、ジンノを見つめる。
ジンノは口元に笑みを浮かべていた。