櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
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何年ぶりだろうか
この場所に来たのは。
見覚えのある大木にそっと手を伸ばし、シェイラは目を閉じた。
頬を優しく撫でる春風を全身で感じる。
ここは魔法学校の裏
ルミと何度も約束を交わした場所
シェイラにとって最も大切な場所。
(ルミが死んだ、あの日以来か......ここにちゃんと来たのは)
怖かった。
ここに来てしまえば、ルミが居なくなったという現実が突き付けられてしまう。
初めて自分のすべてを受け止め、それでも愛してくれた人を亡くしてしまったことを、嫌でも認めなければならなくなる。
シェイラは逃げた。
ジンノのように強く、生きる事が出来なかった。
心が壊れる恐怖に怯え、逃げ出したのだ。
だが、彼女は生きて自分の元に現れた。
現実から逃げ出した、弱い自分の元に。
そして引っ張りあげてくれた。
あの部屋から、外の世界へ。
彼女は、彼女達兄妹はとても強い。
互を心から信頼し、強い絆で結ばれている。
自分にはないそれは、あまりに眩しく尊い。
同時にとても羨ましく感じる。
(弱い俺に、守ることはできるのだろうか......)
覚悟をしてここに戻ってきたが、今でも不安で心は揺れてしまう。
それでも
「シェイラさんっ!!」
彼女が自分の名を呼んでくれる限り
闘える、いや
闘わないといけない
もう二度と失わないように。
もう、同じ思いをしないでいいように。
他の何を失ってでも、彼女だけは。
「守ってみせるよ......ルミ」
目の前に降り立った、愛しい人の名を呼ぶ。
シェイラの小さくけれど確かな誓は
笑顔を向ける彼女の元にたどり着く前に
風に乗って消えていった。