櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
それはあまりに幻想的な光景だった
────────────
月明かりに照らされる《それ》は淡い桃色の花
そう
確かにそれは、サクラの花。
「わあ......」
ルミアは思わず声を漏らす。
初めて目にする夜サクラは、言葉を失い眩暈がするほどに美しい。
時が止まったように、ルミアは目の前を彩る桃色の花に見惚れていた。
シェイラは自らが作り出したサクラを見上げる。
十年前、彼女の為に咲かせたいと願ったサクラを。
ふと視線を横にずらせば、そこにはその愛しい彼女がいる。
月明かりに照らされた純白の少女はサクラに引けを取らぬほどに神秘的だ。
シェイラからしてみればサクラよりもルミアの方が何倍も美しい。
フェルダン王国においてサクラは平和の象徴。
しかし、その花を咲かせる力は数百年に一度、神に選ばれた王子にしかない。
その王子たちはこの世界に存在する幾多の魔法を使えるという。
シェイラも、その一人。
だからこそ分かる。
数多の属性の魔力を扱えるということは、それだけ不安定だと言うことが。
おまけにシェイラは、魔力量が歴代の魔法使いよりも多かった。
その分、コントロールを間違えた時周りに与える影響は甚大。
いつの間にかシェイラは魔力を内に内にと抑え込むようになってしまった。
魔法を使えと言われても無意識に暴発することを恐れて、上手く使えない。
呆れたように自分を見る周りの視線。
出来損ない。
そう言われていると実感した。
自分の不甲斐なさに落ち込むシェイラ。
そんなある日の事だった。
人気のない魔法学校の裏で彼女を見かけたのは。
柔らかな雪の中に一人佇む白い少女。
美しかった。
ただただ目を奪われ、その光景に心までも惹きつけられた。
彼女に出会ってからシェイラの毎日は変わった。
より鮮やかで輝かしいものに。
そして、魔法を使う事を以前ほど恐れなくなった。
怖いものは怖い。
でも、ルミアも同じだと知った。
みんな怖いのだと。
自分だけが怯えていてはいけない。
それに、ルミアのように美しい魔法であれば...それが自分でも使えるというならば。
やってみたいと思った。
そう思った日からシェイラは様々な魔法の練習をした。
ルミアに見せたいという思いが大きかったかもしれない。
だからだろうか。
自分でもびっくりするほど魔力を上手くコントロールできるようになっていた。
ああ、こういう事か。
誰かの為にやろうとするから美しいのかと。