櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
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「...............んん、ん?」
ガバッ!!
「うわっ、真っ暗じゃん......」
(寝ちまった...、てか寝すぎたぁ!)
朝方に出発したにも関わらず辺りは真っ暗に、すっかり夜の風景に変わってしまっていたのだ。
その変わり様がオーリングのうたた寝の長さを物語っていた。
「...はああぁ.........」
自分の情けなさから出る溜息とは裏腹に、体はさっきまでの疲労感が嘘のように軽くなっていた。
(もう、何やってんだよ俺ぇ...くっそおおーー!!)
頭をガシガシとかきながら不甲斐なさに身悶える。
しかし、この際どう仕様もない。
「喉乾いた...」と、のそのそと川べりまで向かい、水面に顔ごと突っ込んで目を覚ます。
ついでに器用に水も飲む。
「ぷはっ! ん.........?」
川から顔を上げると、オーリングは違和感に気付いた。
川べりに最初来た時にはなかった何かがあるのだ。
恐る恐るそれに近づき、何かと様子を伺う。
その時、雲に隠れていた月が顔を覗かせ、ソレを明るく照らした。
「あ.........」
言葉を失うとはこのこと。
そこにいたのは見たこともない衣装をまとった絶世の美女だった。
気を失っているのか、その瞼はきつく閉じられている。
良く見れば彼女の全身はびっしょりと濡れていた。
しかし、それよりも何よりも、オーリングはその美しさに釘付けになってしまっていた。
程よく濡れてしっとりとした真っ赤な唇。
月の光を浴びて淡く輝くプラチナブロンドの髪と、汚れを知らない真っ白な肌。
長いまつ毛と美しく整った端整な顔立ち。
服を着た上からでも分かるほどほっそりとした手足と体。
彼女を絶世の美女と言わずして、誰をそう呼ぶのだろう。
オーリングは自分の顔に熱が集まるのをしっかりと感じていた。
無意識のうちに彼女の頬に手を伸ばす。
彼女の肌はしっとりとそして白絹のように美しかった。
それと同時にはっとする。その肌の冷たさに。
(息はしてる...でも、危ないな)
オーリングそう思うと、その体を抱え森の中に向かって走り出した。川沿いは若干ではあるが気温が低いのだ。
冷えきった体のことを考えると、少しでも暖かいところがいい。そう思った。
それにしても...
(.........軽い、下手したらこの辺の貧しい村の人間たちよりも、...)
細いその体の重さに絶句しながら、オーリングは走り続けた。