櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
(本当に冷たいな......)
川べりから少し離れたある場所に彼女を横たわらせ、額に手を当てる。
熱はないようだが逆に冷た過ぎるのが気になった。
「(フレイム...)」
オーリングは何もないところに火の玉を作り出した。
火属性の魔法を使える者なら誰でも扱える初級魔法だが、モノを燃やしたり人を火傷させたりすることはなく、ただ熱を感じさせるだけの形ばかりの炎。
人を温めるだけならばこれより最適なものはない。
オーリングは彼女と炎を残し自分の荷物を取りに先の場所へと戻っていった。
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荷物を手に彼女の元へ戻ったオーリング。
彼は先程とは違う光景に一瞬驚く。
眠っていたはずの彼女は、翡翠色の瞳を月明かりに輝かせ、じっとこちらを見つめている。
そこからは何の感情も読み取れない。何が起こっているのか必死に考えているのかもしれない。
もう一つ。
さっきと違うこと。灯したはずの火が消えていた。
本来であれば、魔法により作り出されたものはそれと対極にある力で魔力自体を相殺するか、魔法をかけた本人がそれを解かない限りなくなることはない。
ただ風が吹いたぐらいで消えるものでもないのだ。
(何で消えてんだ......)
僅かな疑問が残る中、オーリングは口を開いた。
「あ、起きた?」
「へ?」
余程一言目が予想外だったのだろう。
さっきまでの緊張感が簡単に崩れてしまった。
「いやぁー、目が覚めたみたいで良かったぁ!!
もうね、びっくりしたよ、君を見つけた時には!全身ずぶ濡れだし擦り傷はあるしー、運悪く傷薬は切れてるしさぁ!まぁ、何はともあれ無事で良かったなあ! 」
「............」
「あっ、火消えちゃってたね。
ゴメン、ゴメン。すぐに付けるよ!寒かっただろう?」
「......あ、いえ。お構いなく。」
「いやいやいや、こうして出会ったのも何かの縁!お構いしますよ!!」
よく自分はハイテンション過ぎることがあると言われるが、ここまでしらけている人を見たことがない。
このままだと完全に独り言が激しいただの煩いおじさんだ。
ちょっとだけショックを受けているオーリングだった。
彼女はオーリングが信用できる人かどうか必死に判断しているよう。
じっと見つめながら動こうとしない。
それにしてもやはり美しい。
翡翠色の瞳が更に男の心を魅了する。
「............」
「............」
「.........ど、どうかしたのか?」
「............別に」
「そ、そう!ならいいんだ!いやぁ〜、美人さんに見つめられると流石に照れるなぁ!」
「.........」
顔に熱が集まり始めるくらい、この状況は辛いものだった。
心の中で何度も(そんなに見つめてくれるなあーー!)と叫びまくった。
相変わらず彼女は無言。
だが、彼女の瞳が少し揺れたような気がした。
感情の読めないそれから、不安が読み取れたような気がしたのだ。
暫くすると、自分から喋ることのなかった彼女が小さく言葉を発した。
「あの」
「ん?ナニナニ??」
「ここって地獄ですよね」
「...............ン?」
(一発目の話題がソレーー?!)
この時の自分はきっと目が点になっていたに違いない。
しかし、彼女の質問はまだ終わらない。
「貴方は人ですか?
それとも悪魔?私を襲うためにやってきた人に化けるバケモノ?」
「.........え??」
やっぱり彼女の言っていることは理解できない。でも、
(不安なのか......)それだけは感じ取れた。
「ここは何処
貴方は......何者?」
その言葉を聞いた瞬間に、この人を助けなければならないとそう感じた。
そして彼女の肩を掴む。
「......っは?!」
突然掴まれてびっくりしたのだろう。
びくりと肩を震わせ、こちらを見る。
「いいかい、よく聞いて。」
「?は、はあ...」
「まず、ここは地獄じゃない。」
「え、」
「天国でもない、人が生きる世界だ。」
人の出会いは突然で
「それに僕は人間。
名前はオーリング・プロテネス。
好きなように呼んでくれていいよ。」
それは偶然であり必然でもある
「どうしてここを地獄と考えたのか分かんないし、気になるけど、僕のことは信用していいから。心配しないで。
僕はこの国の中心に近い人間だ、大抵のことは分かるし信用してもらえるだけの地位と力は持っているつもり。」
もし、この出会いが必然であるのならば
「安心して。もう大丈夫だよ。」
俺がこの人を救わなくてどうする