櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
まったく。
ようやく静かになったノアの上でルミは、フゥと小さく息を吐く。
あれから、オーリィさんの口利きで(半ば強引に)、この綺麗な一角獣ノアを引き取ったルミ達は彼女の背に乗り、王都を目指し走っていた。
ノアは何故だか知らないが、大の男嫌い。
男という性別を持つもの全てが嫌いなのだそうだ。
おかげでオーリィさんを背に乗せることをこれでもかと言うほど嫌がり、大変だった。私が必死に説得して、渋々許してくれたのだが、これだ。
事ある毎に、オーリィさんを下ろせだの落とせだの、悪口ばかりである。
人語を喋るのにも慣れてきたのか、やたら饒舌に話し始めるものだから、聞いているこっちが疲れるというもの。
オーリィさんにはわざと聞こえないようにしているから、もはや愚痴と一緒だ。
でも、そんな風に愚痴を零すものの、ハイスピードで駆けてくれるし、走ることに対して文句も嫌味も何一つない。
「ありがとうね、ノア」
『...例を言われるほどでもないわ、これくらい』
「うん。でも、ありがとう」
純白の首に頬を寄せ、ノアの顔をのぞきながらそう言うと、一瞬ちらりとこちらを見てから、照れたように『...ああ』とだけ返してくれた。
その様子に思わず微笑んでしまう自分がいる。
不思議な話だが、この世界に来てからというか、この世界に存在する人たちに触れてから、表情が変化しているのを感じる。
いつも無表情で誰からも好かれることなく、常に一人で行動してきた私が、だ。
ここ数日、数時間での自分自身の変わり様にその当人が一番驚いている。
「本当...不思議......」
ぼそりと零したその言葉に、後ろにいたオーリィさんが怪訝そうに私の顔をのぞき込んだ。
「何か言った?ルミちゃん」
心配層にそう聞く彼に私はぎこちなく笑いながら「いいえ、何も」と答える。
「そう、ならいいんだけど...」
私からはオーリィさんの顔は覗けないけれど、さっきから私やノアに少しばかり邪険されて、不服そうな顔をしている彼が想像できた。