櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
◇
「君っ、大丈夫かっ!!?」
突然、自分たちの目の前に飛び出し、倒れ込んだ少女。
シルベスターとフランツィスカは驚き、その子の傍へと駆け寄った。
その少女の背中には、拳銃で打たれた跡と、その弾丸に込められていたであろう闇の魔法の痕跡だけが魔法陣となり、背中に浮き出ていた。
(私達を、守ってくれたのか...?)
見ず知らずの少女が、身を呈して守ってくれた事実と、やはり自分たちがこの場で命を奪われる算段だったことを、漸く完全に理解するシルベスター。
少しばかりパニックに陥っている人々の中に、自分の命を狙っている敵を探す。
その敵は思ったよりも早く見つけることができた。
何故なら、この場にはふさわしくないほどの闇の魔力を発していたのだから。
黒い敵は2人。今の発砲が失敗に終わったことを悟り、もう一度と銃口をこちらに向けている。
(どうにかして、避けなければ...!次は確実に殺される──)
シルベスターがそう悟った瞬間
大量の出血でありながらも、目の前の少女が上半身を上げた。
シルベスターとフランツィスカは目を見張る。先程の少女とは別人に見えたのだ。
少女というよりは女性に、色素の薄いプラチナブロンドの髪は完全な白髪に、翡翠色の瞳は深みのある濃い瑠璃色に。
「ハァ......下がって.........ハァ」
背中の傷が痛むのだろう、肘をつき、体を支えながら、それでもなお、シルベスターとフランツィスカを守ろうとする目の前の女性。
彼女の瞳が、再度こちらを狙う銃口に気付いく。
そしてその銃口から、黒き弾丸が発射されると同時に
〈アイス〉ベルク
彼女がそう唱えた途端
ガンッ、ガンッと盛大な音を鳴らしながら、弾丸の行く手を、巨大な氷の壁が塞いだ。
それだけではない。
視界が遮られ、シルベスター達を狙うことが出来なくなった黒い影達は、計画失敗。
その場をいち早く去ろうとする。
そのことに感づいたのだろう。
「あいつら......!!逃がして、たまるか.........ハァ、ハァ」
〈ブライト〉ブレス
〈アイス〉チェイン
二つの魔法を同時に使った彼女は、片方の腕を大きく振り上げた。
その瞬間、地面から氷でてきた鎖が飛び出し、物凄いスピードで黒い影に向かって進む。
逃げようとしていた影たちの足や胴に絡みつき、彼らは身動きすることもできず、その場に倒れ込んだ。
「......凄い.........!!」
その一言に尽きる。
シルベスターは驚愕の眼差しで、白髪の彼女を見つめた。
王族の衛兵たちにも魔法を使える者がいるというのに、この数分の間に彼女ほど、俊敏にかつ、的確に判断し行動できたものがいただろうか。
いや、いるわけない。
現に、今この場にいるものたちは、この一瞬の惨劇をただ呆然と見つめることしかできていないのだから。
「お前たちっ!!何をしている!!直ちに、この子を医務室に運べ!早急に処置をはじめるんだ!」
「は、はい!!」
「魔法を使える者達は敵の捕縛
市民の安全を第一に考えろ」
「はっ!」
彼女は、息を荒げ、苦しそうに呻いている。
「大丈夫か?傷が痛むのだな...
すまない、助けてもらったというのに。今の私達にはどうする事も出来ないんだ...」
悔しそうにシルベスターがそうつぶやいていると、フランツィスカが驚きの声を上げた。
「どうしてっ!?
どうして貴方がここに...!」
「どうした、フラン.........ええっ!?」