櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
大きなとんがり帽子に、木で作られた杖
黒いマントと、それから覗く骨張った細い手足
血のように真っ赤な唇は弧を描き
箒を手に、ニヒルに微笑む
.........いや、いや、いや
それは、魔法使いとは言っても、恐ろしい『魔女』の方。
ルミは頭を振り、それまでの想像上の絵を振り払う。
この国における魔法使いは、きっといい魔法使いに違いない。優しいけれど不幸な女の子に手を差し伸べてくれるような、そんな良い魔法使いだと思う。
オーリングがそうだったのだから。
ルミは、オーリングが火を灯す時そうしたように、手をかざしてみる。話を聞いた感じだと、私は氷の魔法を使ったらしい。
(...何か.........何か、氷とか...出て来い〜)
布団の上で、まるで念力を使おうとするように両手をかざし、念じる。
だが、何も起こらない。
まあ、当然よねと納得してしまう。やはりみんなの勘違いなのだ。この国に、この世界に初めて訪れたような人間が魔法を使える訳が無い。
それでも、少しだけ残念に思う。もしも、魔法が使えたらなんて幻想的だろうか。本当におとぎ話の世界に来たような感覚に浸れることだろう。
瞼を閉じ、少しだけ、自分が華麗に魔法というものを使いこなしている、そんな姿を思い描いてみたりする。
そしてそのままルミは、再び深い眠りについていったのだった。