櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
結果、ルミは一命を取り留めたものの、それから丸1週間彼女が目を覚ますことはなかった。
オーリングは彼女が目を覚ますその時までと、ベッドの傍らに、彼女のそばに出来る限り居続けた。母を連想させる白く細いその手を優しく握り締め、生きてくれと祈り続けた。
彼女が目を覚ました。
翡翠色の瞳が、朧げに俺を見て、小さく「............オーリィ...さん?」と名を呼ぶ。
自分の頬に暖かいものが伝うのが分かった。手に伝わる温もりがこんなにも愛おしく、名を呼ぶ声がこんなにも胸を苦しくさせる。ここ数年流れることのなかった涙がいくつも頬に筋を作る。
この瞬間に気付いてしまった。
自分のこの苦しいほどの気持ちに。
それでも俺は、気付いていないふりをする。その気持ちを向けていいのはきっと俺ではない。
彼女は、ルミは生きていた。
それだけでいいのだ。笑顔を向け自分の名を呼んでくれさえすれば、それだけでいい。
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「プロテネス卿、大丈夫ですか?」
その声に、ハッとする。
書類を片手にした衛兵が心配そうにオーリングを見ていた。
「働きすぎなのでは?しばらく休まれた方が......顔色もあまり宜しくありませんし」
どうやら
ここ数日で色んな想いや感情が交錯し過ぎているようだ。気付かない内に仕事の手を止めていた。ルミのことを思い出し、イライラも吹っ飛んでしまった。
(.........会いたい)
オーリングは、立ち上がった。