櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
「綺麗な、涙ですね」
ルミがそう言うと、シェイラと言う人はぼんやりとしたまま。ルミは指で、その涙を拭ってやる。
「君...は......」
空気が抜けているような、かすれた声で、そう尋ねてきたので「ルミと言います」と答えた。
僅かにだが、シェイラの目が少しだけ大きく開く。
「ルミ...............本当、に?」
半信半疑なのだろうか。そう問いかけてきたシェイラへ、エンマが『そうでございます、ルミ様です』と声をあげた。
するとまたもや、シェイラが泣き始める。
先程とは比にならないくらい、次々と涙が溢れ出る。
『ルミ様が、帰ってこられたのです
シェイラ様の為に!
ですからどうか、生きてください!
死にたいなどと言わないでください
お願い致します!』
エンマは、涙するシェイラを必死に説得しようとしているようだ。その内容に些か疑問点が残るが、目の前の人が死のうとしているのであれば、それを止めないわけにはいかない。
「...死にたいと、考えているの?この人は」
エンマの方を向き、ボソボソと聞く。
コクコクと頭を上下に振り、その通りだと懸命に訴えてる様子から、どうやら本当のようだ。
改めて、横たわる涙に濡れたその人を見る。
何故だか無性に、死んで欲しくないと思った。今日、初めて出会った、お互いのことを何も知らないような人の為に、生きて欲しいと強く願う。
「私からも、お願いします
貴方のこと良く知らないし、死にたいって言うその理由もわからないけど...
でも、私は貴方に生きて欲しい
シェイラさんに、生きて欲しいと思ってます」
少しだけ先程より強くしっかり、シェイラの手を握る、ルミの思いが届くように。
シェイラの、まだ涙に濡れたその黄金色に瞳は、もう一度ルミを捉える。
「僕は......生きてて、いいのかな」
不安そうに彼のその瞳は揺れる。
もしかしたら、それを望まれないで生きたのかもしれない。だからたった一つ、その答えが欲しい、と望むのだ。私と同じように。
でも、だったら。