櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
皆、一斉に振り返った。
かく言うこちらも先生が来たのかとほっとしたのも束の間、
私は盛大に落ち込んだ。
「俺のルミに手を出すな!」
「た、辰巳様.........!」
(なんでアンタがここに来るの!)
そう、そこに現れたのは空気を読めない男・辰巳だったのだ。
その表情に怒りを滲ませ、彼は駆け寄ってきて私の腕を掴み、美和子を置いて崖から離れていく。
「俺のルミの美しい髪を乱暴に扱って…!君たちは女性としてどういう神経をしているだ!白亜の女神だぞ!これ以上俺の女神を傷つけてみろ、絶対に許さないからな!!」
「そんなっ…!辰巳様、違うのっ…だって、その子が」
美和子を筆頭にその場にいた女の子たちは真っ青になりながら弁解を入れようとしている。
だが、辰巳は聞く耳を持たないと言いたげに、聞こえないふりをし、挙句の果てに。
「美和子くん」
「あ、…」
「見損なったよ」
「…ッ!!」
美和子にそう冷たく言い放った。
その時の美和子の顔は、絶望と言う言葉がピッタリと言っていい程に合っていた。
海を背に崖に立つその姿は如何にもその向こうに消えてしまいそうに霞んでいて。
私はそれを見ながら僅かにいたたまれない思いを感じていた。
だいたい、そもそもの原因はこの男なのだ。
私は何度も何度も、時には大勢の人の前でお断りを入れているというのに、未だに「俺の女神」「可愛い彼女」「白亜の女神」などと訳の分からない言葉を並べて彼女たちを傷付けるからこうなる。
私は彼女たちにいじめられても強くいれるが、彼女たちをは違う。
そのことをこの男は分かっていない。
一人でいることができない、小さな言葉で傷ついてしまうような弱い人達なんだから。
仕方がない、これは一言申さねば。
「…ちょっと待ってください、辰巳さん」
「ん?なんだい、俺の可愛い女神?」
ああ、まただこの男。
手で目元を覆い、がっくりとうなだれている私に気付くこともなく、ニコニコと笑ってこちらを見ている辰巳。
まあ、何時までもこの男を自分から切り離せなかった私も同罪か。