櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
トテトテトテ、トテ...
ナチュラルなホワイトブラウンで統一された、目に優しい部屋。
その中を小さい黒い姿がチョコチョコ歩き回る。
床を拭き拭き、箒でハキハキ。掃除をしているようだ。おかげでこの部屋にはいつも、ホコリ一つない。
この黒い小人は、こちらが止めなければ、時間が許す限り働き続けるだろう。
「エンマ、少し休んだら?」
見かねて声をかける。おそらく、間違えていなければ、今朝から休みなしだ。今は遅い昼食を作っているのだろうか、部屋の中に備え付けられたキッチンでカチャカチャと忙しなく動いている。
自分の体とほぼ同じ大きさのフライパンを持ち上げ奮闘している姿を見ているとどうしようもなくハラハラとしてしまう。
その危うさに、ベッドから起き上がりエンマの元へと向かおうとすると...
『わああぁ〜〜!!
動かないでくださいっ、まだ寝てなきゃダメですよぉーー!シェイラ様!!』
エンマは物凄く慌てて近寄って来た。その様子を呆然と見る。
「エンマ、そんな慌てなくても...」
『まだ安静にしてないとっ、まだ体力は全然戻ってないんですよ?ルミ様のおかげでやっとご飯も食べて下さるようになりましたが、まだまだです!体調が戻っただけですよ、自重して下さい!』
本当に世話焼きだなあと、シェイラは小さく笑いを浮かべた。
『もうすぐできますから、そこで待っててください』
呆れた様にそう言い、キッチンの方へと向かうエンマ。
「.........」
シェイラはその後姿を見つめながら、ルミのことを思い出していた。