櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
…なんだこの茶番。
安いメロドラマのエンディングのような展開。
なんだか、このままだと私が美和子から辰巳を奪った悪女みたいじゃないか。
自分でこの展開に持ち込んだものの、納得がいない。
ちょっとだけ憤慨している私を放って、思いを通じ合わせた二人は駆け寄り、抱き合い愛を確かめあっている。
恥ずかしいったらありゃしない。
美和子の取り巻きたちはといえば、二人の熱い抱擁に感極まり涙している。
…一体どこに泣く所があった。
さっきまでとは大違い、二人から醸し出されるピンクピンクした空気に、ルミがそろそろ限界を感じ始めてきたとき。
「……雪乃さん」
辰巳と仲良さげに手なんか繋ぎながら、頬を赤らめた乙女な美和子が、申し訳なさそうな顔で私に向かって頭を下げてきた。
「ごめんなさい」
「……」
何だこれ。
あのいじめっ子美和子が私に謝ってる。
どういう風の吹き回し、これは。
「今まで散々、酷いことをしてしまって、本当にごめんなさい。許して欲しいなんて思ってないわ。そんなの理不尽だもの」
「……」
「私ね、…あなたに辰巳様をううん、『たっちゃん』を取られちゃったと思って、悔しくって、辛くて、…嫉妬したの」
うん。そうだと思ってた、ほぼ。うん。
でもちょっと待って。
?ん?
『たっちゃん』??
「だって、雪乃さんとっても綺麗なんだもの…私に無いもの全部持ってる。『たっちゃん』も可愛いとか素敵だとかいつも言っていたし。私...不安で不安で……あなたがいなかったらたっちゃんは何時までも私のものだったのにって…そう、思ったら…私許せなくって」
「そんな!『みーちゃん』そんな風に思ってたのかい?俺の中ではいつだって一番は君だっていっていたじゃないか。不安になることなんて少しもなかったのに」
??
『みーちゃん』???
……うん、落ち着こう。
あんたら今の今まで喧嘩してて、やっと仲直りしたと思ったら急に『たっちゃん』?『みーちゃん』?
「だって…たっちゃん、いつも雪乃さんのそばにいたじゃない」
「それは、一人で寂しそうにしていたから…何だかその姿がみーちゃんとかぶってしまって。放っておけなかったんだ」
「たっちゃん…っ!昔の私と雪乃さんが似てたからそばにいたの?」
「そうだよ。でも、一度だって君のことを忘れたことはなかった…君は俺の全てだった」
「たっちゃん…!」
「みーちゃん!」
「……あのーー」
「「ん?」」
「勝手に二人きりの世界にトリップしないでもらえますか?すぐ隣にいる私の立場は?」
まったく。すぐトリップする、この二人。声かけなかったら暫く帰ってこなかったに違いない。
「大体何なんですか、その『たっちゃん』とか『みーちゃん』って。相思相愛になった瞬間それですか」
「やだ、雪乃さん。相思相愛って…恥ずかしい」
「ふっ、照れたみーちゃんも可愛い」
「やだ、か、可愛いって…!皆の前で恥ずかしいこと言わないで、たっちゃん!」
「………戻ってこーい」
とまぁ、それから暫くこの馬鹿みたいなやりとりが続いたのであった。